森信親 金融庁長官の講演

4/7に日本証券アナリスト協会にて「資産運用ビジネスの新しい動きとそれに向けた戦略」における講演をされました。就任当初から金融機関に対して厳しい指導をされているなと思っていましたが、この講演の中で非常に同意できる部分や参考となる部分がありましたので、少しご紹介したいと思います。

「マルキールとエリスは、インデックス投信は、一般的に、アクティブ型投信よりもリターンは高いと指摘しています。米国では、企業のファンダメンタル価値を評価する投資家の層が厚いため、市場の効率化が進み、インデックス戦略が有効に機能していると言われていますが、10 年以上存続している日本の株式アクティブ型投信281本の過去10年間の平均リターンは信託報酬控除後で年率 1.4%であり、全体の約三分の一が信託報酬控除後のリターンがマイナスとなっていました。ちなみに、この 10 年間で日経平均株価は年率約3%上昇しており、インデックス投信が一般的にアクティブ型投信に比べリターンが高いとのマルキールとエリスの主張は、日本株投信についても当てはまるように思えます。」

アクティブ型の投信の多くが買い付け時に販売手数料を取っており、さらにインデックス型投信に劣後することになります。なかなか本物のアクティブ型投信を見つけるのは困難ですね。

「日本の投信運用会社の多くは販売会社等の系列会社となっています。投信の運用資産額でみると、実に 82%が、販売会社系列の投信運用会社により組成・運用されています。系列の投信運用会社は、販売会社のために、売れやすくかつ手数料を稼ぎやすい商品を作っているのではないかと思います。これまでの売れ筋商品の例をみても、ダブルデッカー等のテーマ型で複雑な投信が多く、長期保有に適さないものがほとんどです。こうした投信は、自ずと売買の回転率が高くなり、そのたびに販売手数料が金融機関に入る仕組みになっています。」

金融機関に資産運用の相談に行くってことは、鴨ネギのようなものなのですね。金融機関が真の意味での顧客本位のビジネスモデルに転換してほしいですが、顧客側もある程度の金融知識を持つことも大事ですね。

「日本で売れ筋商品となっているテーマ型投信は、売買のタイミングが重要な金融商品といえます。当然、安く買って高く売ることが基本となりますが、継続的に適切な売買のタイミングを見極めることが出来る投資家は、プロの中にも少ないはずです。先ほど申し上げたアクティブ型投信のパフォーマンスが、このことを裏付けています。個人が買う株式投信の売れ行きを過去に遡ってみても、株価のピークで株式投信が最も売れる傾向にあります。本年2月の我が国における純資産上位 10 本の投信をみてみると、これらの販売手数料の平均は 3.1%、信託報酬の平均は 1.5%となっています。世界的な低金利の中、こうした高いコストを上回るリターンをあげることは容易ではありません。日本の家計金融資産全体の運用による増加分が、過去 20 年間でプラス 19%と、米国のプラス 132%と比べてはるかに小さいことは、こうした投信の組成・販売のやり方も一因となっているのではないでしょうか。」

まったくその通りですね。テーマ型が戦略の大部分を投資家が選択するという意思決定を強いられている割に手数料が非常に高いと感じています。そのテーマに深い知識と市場の状況を理解している人以外はあまり触らない方が無難だと思います。

「皆様は、こうした状況をいつまでお続けになるつもりですか?投資商品を買っても思うようなリターンをあげられなかった顧客は、投資額を増やすものでしょうか?そうした商品を勧めた金融機関との取引をずっと続けるでしょうか?そうしたビジネスのやり方は国際的に競争力を高めていけるのでしょうか?」

森長官は本当に正論を述べられていると思います。金融庁のトップがこういった発言が出るということは、日本の金融機関は顧客本位に動いていないということを裏付けていますね。

「私の友人の欧米の運用者たちは、24 時間、365 日絶えず市場の動向を注視しており、自分の資産も賭けて投資判断を行っています。心も身体も擦り切れるくらいストレスが溜まる一方で、成功すれば大きな報酬を得ることが出来ます。このように、欧米の一流の投資運用業は、スポーツの世界と同様、究極の実力本位になっていると感じます。それと比べて日本はどうでしょうか。運用会社の社長が運用知識・経験に関係なく親会社の販売会社から歴代送り込まれたり、ポートフォリオ・マネージャーは運用者である前に○○金融グループの社員であるという意識が強く、運用成績を上げるより定年までいかに間違いをせず無事に勤めあげるかが優先されてはいないでしょうか。」

私も金融機関のファンドマネージャーの経験もあるので耳に痛いです。こうした状況を考えると、アクティブ型投信を選ぶこつは、ブティック型の資産運用会社が運用しているものを選ぶということでしょう。

森長官のさらなる今後の活躍に期待しています。

http://www.fsa.go.jp/common/conference/danwa/20170407/01.pdf

第4四半期日本GDP

トランプ大統領と安倍首相の首脳会談は、日本側にとっては満額回答でしたね。安全保障と経済を分離して議論を進めていく素地ができたのは大きいと思います。2国間で麻生副総理=ペンス副大統領をトップとする新しい協議の枠組みを作るというところがミソでしょうかね。

そろそろトランプ大統領のツイッター発言にも慣れてきたので、市場がいちいち反応することも減少してくるのではないでしょうか。

日本GDP速報

内閣府が2016年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値を発表しました。世界経済のドライバーは米国経済だと考えていますので、それほど重視してはいないですが、一応概観してみようと思います。

GDPは、4四半期連続のプラス成長の1.0%。事前予想(1.1%)を若干下回りました。伸び率は鈍化しており、景気としては依然として勢いを欠いている状況。

輸出、設備投資がプラスに寄与する一方、個人消費は0.0%と振るわず、公共投資も、15年度補正予算の効果の剥落、住宅投資も振るわなかった。

やはり輸出、設備投資だのみといったとこでしょうか。米国経済の動向に左右される展開に変更はないようです。

2017年市場見通し メインシナリオ

世界経済の予想
今年の経済予測は非常に難しい。世界経済を牽引する米国経済が、トランプ政権によって、どのように推移するのかが読めないためだ。トランプ大統領の掲げる減税、大規模財政支出、規制緩和、移民規制、保護貿易政策の効果をそれぞれ考えてみたい。

トランプノミクスその1・・大規模な減税、規制緩和、インフラ投資
これらの財政資金のばらまきは、一時的な成長率のかさ上げに寄与するだろう。金融規制の緩和は、中小企業や起業家の資金調達に寄与し、減税と相まって設備投資を後押しすることになる。特に減税は、停滞していた企業収益を引き上げ、高値で推移する株価の支えになりえる。2018年半ばまでは政策効果が続くのではないか。
ただし、こうした財政支出は、本質的には将来の需要の先食いなので、潜在的な成長率を大きく改善する可能性は低い。米国経済の雇用状況は非常に堅調であるため、財政で景気を刺激すると金利の上昇に見舞われることになる。

トランプノミクスその2・・移民規制、保護貿易
停滞している世界経済の中で、唯一、堅調な経済を持つ米国の強みは、比較的良好な人口動態にあるだろう。移民規制を強化することによって、この人口動態に変調をきたす可能性がある。
また、保護貿易政策により、生産拠点が米国に回帰する。米国内で生産が増えると、景況感は大きく改善しよう。ただし、結果的に割高な商品が増えることによって、インフレが加速することになるだろう。もちろん、家計にとってはマイナス。保護貿易は長期的に経済には良くない。

トランプノミクスその3・・財政赤字・エネルギー
財政赤字については、当面は拡大が避けられないだろう。しかし、インフラ投資銀行の設立等により、極力抑えることになるかもしれない。環境・エネルギーについては、温暖化対策計画撤廃、石油の国内生産拡大の方針。だがOPECの減産合意もあり、原油価格の大幅な下落はないのではないか。景気拡大による需要増は、米国シュール企業にとってプラス。

2017年のトランプノミクス
こうしてみると、2017年から2018年にかけては、非常に力強い経済指標が出てくることが予想される。企業業績も停滞から脱出し、株価に見合ったものとなるだろう。米国連邦準備理事会(FRB)も、年2~3回の利上げを行うに違いない。財政支出と金融引き締めは、レーガノミックスの初期と同様にドル高圧力を増すことになる。
これらのことから、日本独自の経済成長要因は今のところ無いに等しいため、日本経済は好調な米国経済に牽引される形で推移しよう。結果的に年内の市場環境は良好に推移するのではないだろうか。

為替:17年後半にかけて125円に向かう。
米国金利:10年国債金利で3%程度まで上昇。
米国株価:金利2.8%程度までは、堅調に推移する。
日本金利:ゼロ金利政策継続により、低位安定。
日本株価:米国株式×ドル円レートに連動。
と予想する。

リスク要因
欧州では、極端な金融緩和による銀行業や年金などへの悪影響の広がりで、ECBへの批判が強まっており、ECBが緩和縮小に動けば、世界的な長期金利上昇のリスクとなろう。春にはフランス大統領選、秋にはドイツの総選挙が予定されている。世界的な反グローバリズム、ポピュリズムの流れの中で、移民規制、保護貿易、拡張財政が唱えられ、新たな地政学リスクとして捉えられる。

さらに新興国については、資本流出圧力にさらされるだろう。トランプノミクスによる拡張財政のため、ドル上昇とともに、中国からの資本流出圧力がさらに強まる。資本規制、元買い介入が予想されるが、中国当局は大幅な元の切り下げに追い込まれるかもしれない。元の大幅な切り下げの結果、新興国通貨も大幅に減価するだろう。一時的なリスクオフによる円高・株安のショックがあるかもしれない。

長期的なリスク要因
長期的には、先進国の人口動態に基づく、または債務の長期サイクルによる、恒常的な低成長トレンドからの脱出は困難に思える。もともと、米国経済の景気拡大局面は成熟局面にあり、良好な雇用による消費の回復が見られるものの、自動車販売や設備投資などはすでに減速していた。トランプノミクスによって一旦回復するが、積極財政は需要の先食いであり、大きく潜在成長率を改善させることは困難だろう。むしろ移民規制や保護貿易は、潜在成長率の低下を招く。金利上昇とドル高の継続によって、トランプ景気は長く続かないのではないか。恐らく18年中に何らかの変調をきたすかもしれない。

問題は、マーケットがこのトランプ景気の終焉をどこで織り込むかであろう。見るべき指標は米国長期債金利の水準。米国長期債金利が3%程度まで上昇した場合に株価が高値圏にあれば、一旦リスクオフを考えてみるべきなのだろう。