デフレを考える

遂にFED(連邦準備制度)は、バランスシートの拡大に向かうことになった。パウエル議長はこれを「量的緩和」ではないとし、あくまで短期金融市場の安定化を図るものだとしている。

そもそも短期金融市場の安定化とは何か。すなわち短期金融市場であるレポ市場の金利の急騰を抑えるためである。レポ市場とは、金融機関などが国債を担保としてオーバーナイトなどの短期で資金を借りるための市場である。この市場の金利が急騰したということは、資金の供給量が、国債の担保に対して負不足しているということあり、これを補うためにFEDが短期国債を買って市場に資金を流し込むということである。

あまりに市場に国債及び資金が大量に出ているいるためにちょっとしたバランスの変化に金利が暴走し、これを抑えるためにさらにジャブジャブにするという手段にでたということである。

量的緩和再開?

短期国債の買い入れと長期国債の買い入れの差こそあれ、両市場は密接に関係しているために、実質FEDが量的緩和を再開したようなものである。これにより、日本、欧州、米国が量的緩和を再開したと言えるのではないだろうか。

しかも世界的に株式市場は高値近辺であるし、失業率も低いにも関わらずである。ではなぜ、各国の中央銀行は量的緩和を行うのか。

デフレの恐怖

現在、日米欧をはじめとする各国の中央銀行は、インフレ目標を持ち、ほとんど原理主義的にインフレ2%を唱えている。かつてはインフレファイターとして名をはせたドイツですらインフレを望んでいる。デフレは経済にとって非常に不都合なものであり、インフレを前提としてきた色々な制度(年金、財政など)の破壊を意味するからだろう。

デフレとは

デフレとは物の価値の低下、相対的には貨幣価値の上昇であるから、実質金利と実質債務が増加する現象である。この原因は、先進国において高齢化が進み、労働人口が減少し、年金生活者及び社会保障を担う労働者が消費を減少させることによるものだと思う。消費、つまり需要の減少は、低い経済成長と価格低下を促すため、デフレの原因となるのである。

ひとたびこのような状態になると、実質金利の上昇、実質債務の拡大を嫌い、家計では消費減、企業では投資減という行動をとることになる。

これまでであれば、実質金利が上昇した場合、中央銀行が利下げを行うことで実質金利を低下させ、消費と投資の減少を抑えることができたのであるが、今はゼロ金利を通り越してマイナス金利の世界である。黒田総裁は否定するであろうが、マイナス金利は限界がある。お金を貸すのに金利を払うバカがいるわけがないというのが限界の理由だ。

デフレスパイラル

さて、金利が限界を迎えると利下げで実質金利の上昇を抑えることができなくなる。利下げができなければ、さらに消費減、投資減が進み、投資減は賃金減を生むことになり、賃金が減れば消費もさらに減る。これがデフレスパイラルという現象である。

このスパイラルを止めるために各国中央銀行は、金利をありえないほど下げ、紙幣を刷りまくって貨幣価値を低下させ、物価を引き上げようとしているわけだ。

しかし、デフレ側の要因は、人口動態やITの進化による生産性の向上という構造的なものなので、恒久的にデフレ圧力を加えてくる。結果として、中央銀行の資産と負債は拡大の一途をたどる。

財政ファイナンス?

バランスシート拡大による問題は、国債市場に大量の資金が流入することで生じる資産バブルである。流入した資金は社債市場や株式市場にも溢れ出し、経済の長期停滞にもかかわらず資産価格を高騰させる。現在の市場がまさにそれを表している。

いきつく先は?

需要サイドが一過性の問題であれば、いずれ需要は回復し、金融政策を正常化することは可能だろうが、残念ながら問題は構造的なものである。金融政策だけで解決することは不可能だろう。インフレ前提の経済政策から180度転換したような政策が必要なのではないか。

このまま中央銀行が量的緩和を続け、バランスシートが拡大し、将来の需要の先取りである長期債務を膨らませ続けることは可能だろうか?不可能だろう。つけは必ず払わなければならない。

方針

この国債バブルも他のバブルと同じようにいつまでもつのか予測は難しい。ただし、危険な状況にきているということはわかっている。こうした状況では、市場のボラティリティーが大きくなり、値幅がでるため、株式オプションの買いを検討したい。もちろん、すでに現金比率を最大限高めている。

報告が遅くなったが、米国の短期債購入を機に、日経平均の売りは21000近傍でクローズ、為替も108円にて買い戻した。結局、大きな利益をとることができなかったが、今後は、日経平均VIXの買いを行っていこうと思う。

FOMCと今後の市場動向予測

アメリカの中央銀行であるFED(連邦準備制度)は9/18、金融政策決定会合であるFOMCを開き、政策金利を1.75%-2.00%へ0.25%利下げすることを決定した。

声明文も前回の声明文とほぼ同じであったが、今後の政策金利の推移を予想したドットプロットは、今後数回の利下げを予想していた前回よりも、現状維持予想が増え、ややタカ派的な内容となった。

これを受けて為替市場はややドル高に振れたものの、株式市場は調整することもなく、高値圏を維持している。

ドル円レート

S&P500(米国株式)

日経平均

ECB(ユーロ圏)も、先だってマイナス金利を拡大し(-0.4%→-0.5%)、量的緩和を再開しており、世界的に量的緩和モードとなっている。今後の焦点は、米国がいつ量的緩和を再開(QE4)するかであろう。

なぜ株価は高値圏?

米国株式市場が史上最高値圏で連続して利下げを行うという不思議な状況は、なかなか理解しがたいものである。

株価が高値圏を維持している理由としては、中国経済の失速、欧州経済の減速が明らかになる中で、米国経済は、底堅い個人消費に支えられて強さを保っていることが挙げられる。

一番大きな要因は、米国にはさらなる緩和余地があり、量的緩和再開というバズーカをもっているということではないか?

では、米国が量的緩和を再開するのはどういった状況であろうか。昨年の12月の株式の大幅下落で、FRBは金融引き締めの態度を180度転換し、利下げへと舵を切ったことを考えると、次の量的緩和の再開には、やはり大幅な株価の調整が必要なのではないか。

つまり、高値圏の株価は、量的緩和期待で支えらるものの、量的緩和は株価下落がない限り再開されないという、不思議な関係のように見える。

今後の動きは?

来年、選挙を控えるトランプ大統領は、来年の選挙前には高い株価のサポートが必要と考えているだろうから、来年まで、インフラ投資、減税第2弾、対中国貿易交渉妥結というカードは残し、これまでと同様に、ツィーターで株価が高いときに対中強硬姿勢を見せ、安いときにそれを緩和させるという操作?で株価をコントロールしようとするだろう。

これらのことから、為替については、単純に金融緩和余地のあるなしで今後の方向性が決まると考えている。つまり、ドル<ユーロ<円といった関係になり、緩和余地のない円が強くなる状況を想定している。

株価については、ボックス圏での横ばいが継続すると考えるのが妥当だろうが、株価が、緩和期待だけで保たれている以上、大きな調整を念頭においておくことがいいのではないか。

市場概観、リスクと展望

トランプ大統領のツイートで大きく市場が動く状況が続いている。米中貿易戦争を巡る発言に一喜一憂する展開となっているが、本質的には世界経済の減速が背景にあり、米国の金融引き締め政策から緩和政策への転換が大きなドライバーではないだろうか。まず市場の動向を概観し、存在するリスク要因、長期的な展望を考えてみたい。

市場動向の概観

まず株式市場から。

日経平均

S&P500

米国株式は、金融緩和期待により、昨年12月の下落から回復し、高値を更新した後に、実際に7月のFOMCにて0.25%の利下げが行われ、さらなる利下げを要求するかのように調整している状況。

一方で日経平均は、昨年の安値を底割れしていないものの、安値圏に留まっている。内需産業は10月の消費増税を控え、輸出産業は円高により圧迫を受けているために米国株式から劣後している。

ドル円レート

ドル円相場は、米国の利下げ期待による長期金利の大幅な低下を背景として円高が進んでいる。より大きな円高を想定していたが、欧州、中国などグローバルな金利低下の影響により、ドルが相対的に強くなっていることが要因だろう。

米国長期金利(10年)

「米国の金融引き締め政策」を理由に、昨年央から、日本株の空売り、ドル円の売りを行っているが、依然ポジションは保有している。

こうしてみると中長期的には概ね予想通りの動きとなっているが、短期的な動きに翻弄されたり、金利低下で恩恵のある金の買いを見逃していたりと反省点も多い。収益を生み出すにはつくづく胆力が重要だということを思い知らされる。

世界経済のリスク

  1. 貿易戦争
  2. ブレグジット
  3. イタリア・アルゼンチン
  4. 香港デモ
  5. 中国の減速

ざっとこのようなものを想定している。順に考えてみよう。

貿易戦争は、一般に覇権争いと言われているが、そのとおりだろう。トランプ大統領のポピュリズム政策ではなく、米国議会の意思でもあり、早期の決着はありえない。ただし、逆に選挙を控えたトランプ大統領の方が選挙のない習近平主席よりも妥協する可能性が高い点が波乱要因ではないだろうか。

ブレグジットに関しては、ボリス・ジョンソン政権の下では、10 月 31 日に No Deal Brexit に至る確率はかなり高いと見るべきだろう。

アルゼンチンの通貨ペソが急落し、IMFの助けを仰ぐことになったが、アルゼンチンの通貨危機は今に始まったことではない。とは言え、新興国の通貨危機がグローバルな信用収縮の発端となることもあるため、注意は必要である。さらにイタリアの政局不安が、ブレグジットで揺れるEUにさらなるダメージを与える可能性がある。

香港のデモは、穏便に収束する気配が見えない。旧宗主国の英国は影響力を行使せず、米国も介入する姿勢を見せていないが、中国による武力介入があった場合には、世界的な批判・制裁が巻き起こる可能性がある。

中国の景気減速は、米国との貿易戦争が発端ではなく、過剰設備やシャドウーバンキングの問題、成長の限界といった問題が背景である。中国経済の影響を受けるオーストラリア経済が、数十年ぶりの景気後退に陥る可能性があることや、対中輸出の比率が高いドイツ経済が不調であることから、中国の減速は深刻であると思える。

こうしたリスクを眺めてみると短期的に解決する可能性があるのは「香港デモ」「ブレグジット」「アルゼンチン・イタリア」、少なくとも年内の解決が難しいのは「貿易戦争」「中国減速」。しかしながらインパクトが大きいのは圧倒的に後者であり、なかでも中国の減速は、本質的な問題である。

長期的な展望

はたして、世界的な低金利政策、金融緩和がこれらのリスクを抑え込めるのか。因みに各国の金利は大体このような状況だ。(10年国債)

米国 1.5%
ユーロ -0.7%
英国 0.6%
日本 -0.3%
中国 2.8%
カナダ 1.1%
豪州 0.9%

国家財政の問題があるギリシャ2.1%、イタリア1.5%でこの金利である。何かがおかしくはないだろうか。米国とイタリアが同じ金利となる必然性が考えられない。それほどユーロは強固なのか、まさにブレグジットが起ころうとしているのに。ましてここまでマイナス金利が常態化するとは考えらなかった。まさに「質への逃避」による国債バブルである。資金の需要と供給がアンバランスとなっていることの傍証ではないだろうか。

しかもこの状態が継続していくことはほぼ間違いない。各国が利下げモードに入っているためだ。こうしてみると先頭を走っていた日本に各国が追い付いているとも言える。これまで日本がたどった道を世界経済も進んでいくように思える。すなわち低成長・低インフレの世界または、成長を実感できない経済とも言える。

低金利は、貯蓄の多い老人から貯蓄の少ない若年への資金の移転でもあるので、高齢化が進む世界の先進国の必然かもしれない。

結局のところ、政府はこの低金利を利用し、安いコストで国債を発行し、財政出動を繰り返すことになるのではないか。まさに現代貨幣理論(MMT)の目指すところである。大規模な金融緩和という実験のあとは、大規模な財政出動という実験が始まると思う。

市場の動きに関しては、これまでの日本が経験してきたような状況がしばらく続くのではないだろうか。これに関しては時間をかけて考えてみたい。考える時間は少しあると思う。

現在の日本株売り・ドル円売りのポジションは、少なくとも次回の米国利下げまでは保有しておこうと思う。

第2四半期米国GDP

更新が遅れました。今更ながらですが米国GDPのアップデートです。

米商務省が7月26日に発表した第2四半期の実質国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値は、年率換算で前期比2.1%増だった。

事前予想の1.8%を上回る結果となった。個人消費と政府支出が全体を押し上げ、設備投資と外需の減速を補った。

予想を上回る結果を好感し、NYダウは50ドル程度上昇した程度であった。次回FOMCでの利下げ予想を覆すようなものではないという市場の判断であろう。

では、いつものように、内容を確認してみる。

個人消費

米経済の約7割を占める個人消費は4.3%増加、前期の1.1%から反発し、予想の4.0%を上回った。

前期の減速は、政府機関の一部閉鎖が影響したものであったことや、歴史的に低い失業率が堅調な消費を支えている。

固定投資

固定資産投資は0.8%減。前期の3.2%増から減速。

設備投資も0.6%減と、前期の4.4%から大きく減少。ガスや石油の立坑・油井を含む住宅以外のインフラ投資が10.6%減少し、全体を押し下げた。米航空機大手ボーイングが737MAX型機の問題で生産を減らしていることも一因。

住宅投資は1.5%減、6期連続のマイナス。住宅投資は、関連消費に大きく影響を与えるために個人消費へのネガティブな要因となっている。

輸出入

輸出は5.2%減と、前期の大幅な伸び(4.1%増)から反転した。貿易としては前期は0.7%GDPに寄与したが、0.65%ポイント押し下げた。

政府支出

政府支出は5.0%増。政府機関の一部閉鎖が1月に解除された後、支給が遅れていた一部の連邦政府職員への報酬を支払ったことで押し上げられた。

前期の2.9増から大幅に拡大。2017年以降で最大の寄与。

まとめ

  • 米国GDPは予想を上回り、数字としては素晴らしい結果。
  • 個人消費は底堅い。政府機関閉鎖の影響の剥落が要因の一つだとしても堅調であると言える。
  • 外需は対中国の貿易戦争の影響が徐々にでている印象。
  • 住宅投資は、6四半期連続でマイナス成長。
  • 設備投資が2016年第1四半期以来初めてマイナスに転じた。

個人消費が底堅さを見せた一方で、設備投資が大きく減速した。企業活動の減速を理由にFRBは、次回FOMCで市場の予想どおり利下げを行うというコンセンサスを覆すほどのものではないという市場の判断であろう。

債券運用者と株式運用者

米国の長期金利が大きく低下してきている。6/8現在、10年債金利は2.084%となっており、FRBの政策金利であるFFレートの誘導目標2.25-2.50%を下回る水準である。昨日の雇用統計の悪化やトランプ政権の関税政策の懸念によるものだが、今年1月のパウエルFRB議長の豹変が大きい。昨年末の株価の大幅な下落とトランプ大統領の恫喝を受けて、突然ハト派に転換したことである。これにより利上げを想定していた市場は、反対に利下げを想定することとなったのである。

米国10年国債金利

もともと自動車販売や住宅販売に陰りが見えていた米国経済は鈍化しており、金利の動きとは整合的である。当然、金利差が大きな材料となる為替市場では円高が進んでいるが、同時にブレグジット懸念のあるポンド、ユーロ、消費増税を控える円それぞれに問題を抱えるために一方的なドル安とはなっていない。

円ドルレート

ここまでは想定どおりであり、ドル売りポジションは順調に利益を膨らましている。問題は株式の動向である。

S&P500

日経平均

S&P500に比して日経平均が大きく劣後しているのは、想定通りではあるが、現在の世界景気をリードしている米国の株式市場がしぶといのだ。依然高値圏にあり、昨日のように弱い景気指標が出ても、利下げ材料として捉え、株価が上昇するという展開が続いている。

昔から債券運用者は悲観的で、株式運用者は楽観的、大抵の場合は債券運用者が正しいと言われるが、今回も同じ状況に思える。2000年のITバブル崩壊、2009年のリーマンショックの時も株式が大きく調整したのは、実際に利下げが起こってからであり、景況感の悪化が知れ渡ってから株価は調整したのである。であるならば今回も実際に利下げが行われるたびに株価は調整し、日経平均の売り建てが大きく収益に貢献してくるのは、9月のFOMCのころかもしれない。

他のリスク資産もハイイールド債を見る限り、依然高値圏にあると言える。やはり実体経済の悪化が伴わなければ、グローバルな過剰流動性環境の中では、行き場(金利)を求める資金はリスク指向を高めてしまうのだろう。

米国ハイイールド債

一方で大型株に先行すると言われている小型株の戻りは鈍い。またGAFAといわれるプラットフォーマー企業の株価(今の若いファンドマネージャーたちのお気に入り)やNVIDIA(GPUの大手)の株価の戻りが鈍いところを見ると、市場も半信半疑なのではないかと思う。

米国RUSSEL2000

今後の方針

当初、現在の株式売り建て、ドル円ショートのポジションは、バランスシート圧縮の停止が行われるまでとしていたが、上記の動きから利下げが実際に行われるまで延長としたい。

実体経済の悪化が目に見えるようになる前に、なんらかのショックがきっかけになるかもしれない。例えば経営不安の絶えない欧州系銀行の破綻や保有しているCDSの保証先の破綻などが挙げられる。こうして想定している時点で問題ではないのかもしれないが、気が付いていない大きなリスクがあるような気がしてならない。

一方で、世界景気が、世界的な積極財政出動や金融緩和に支えられて持ち直し、株価はこのまま持ちこたえるかもしれない。この場合は速やかに損切りを行うことになるが、可能性は低いと思っている。

個人的には、景気のサイクルによる劣後企業の撤退や退場は、経済を健全に発展させるために必要なことだと考えており、日本のように低金利でゾンビ企業を生きながらえさせることは、デフレを助長させ、経済の活性化をそぐことになるので、過度な金融政策による延命には反対である。現代金融理論(MMT)の帰結が日本であるならばやめておいた方が良いと思う。