パウエル議長、バランスシート正常化に言及

2019年の年始から世界の金融市場は大きく動いている。いくつかの注意すべきトピックがあったので簡単に考察してみたい。

尚、今年は更新の頻度を毎週火曜日に何らかの記事を取り上げ、マーケットが大きく動く、もしくは大きなニュースが出たときには随時更新していきたい。

では、日本の株式市場から見てみる。

大発会では、前日のアップルの下方修正を受けたニューヨークの株式市場の下落から、大きく値下がりしてスタートし、パウエル議長発言や中国の金融緩和の期待から大きく値を戻し、年末水準を回復してきている。

米国株式

さらに年始に大きく動いたのは、為替市場であった。アップルの下方修正からリスクオフの動きが懸念され、一時的に強烈な円高となった。プログラム売買による一方的な動きによるフラッシュクラッシュと呼ばれる現象が見られたようだ。

ドル円レート

年始のマーケットを動かしたトピックとしては以下のものが挙げられる。

  • アップルの下方修正
  • 中国人民銀行(中央銀行)の金融緩和
  • パウエル議長のバランスシート正常化に言及

まずアップルであるが、中国における売上の低迷から業績が下方修正された。これにより特に為替市場でリスクオフの動きを誘発したが、メディアによる”アップルショック”との煽りを受けたものではなかっただろうか。もともと中国の景気は減速しており、アップルの高価格戦略の不味さや米中貿易戦争の影響による自国製品へのシフトから想定されたものだと感じている。本質的には、中国の景気は減速しているということである。

次の中国人民銀行(中央銀行)の金融緩和であるが、 過去1年で5回目となる預金準備率の引き下げはサプライズではないが、1%ポイントの引き下げ幅は予想よりも大きかった。 これも中国の景気減速が想像以上に深刻であることの傍証だと思われる。トランプ政権にとっては、米中貿易協議を前に大きな譲歩を得られる可能性が増したと言えるだろう。現段階ではこの緩和のニュースは中国の景気減速の確認と言えるだけで、貿易協議が大きく進展し、景気減速に歯止めがかかる状況になるまでは 、株式を買う材料になり得ない。ただし、全人代を控えた中国が大幅な譲歩を見せるとも思えないのだが。

さて、最後はパウエル議長の発言である。昨年末のFOMCでは「バランスシート圧縮は問題ではない」と発言し、市場の期待を裏切っていたが、今回は、「市場の混乱の要因が、バランスシートだとは思っていないが、もし違った結論に達したら、方針の変更に躊躇しない。」とし、バランスシート圧縮の方針の変更の可能性に触れたのである。

発言自体よくわからないのだが、このタイミングで触れたということは、トランプ大統領にも解任をチラつかせられ、 株価の大幅な下落を背景にやむなく発言したと言える。

逆に言うと、この株価水準では、バランスシート圧縮の停止はしないということを表明したわけで、さらに下落した場合に方針の変更もあり得るということである。

こうした後追い発言は、大抵逆の動きになるものであるが、 この発言で株式が反発しているのは、昨年末からの下落スピードが急激であったために、短期的な反発の口実になっているからではないだろうか。

本質的には、バランスシート圧縮(金融引き締め)がリスクオフの原因であり、金利の上昇や株価の下落がようやく実体経済に悪影響を与え始めた状況になっているということである。あくまでバランスシート圧縮を停止するまで、現在のリスクオフ戦略(株の空売り、ドル円の売り)を継続したい。

FOMCとその後の市場動向

アメリカの中央銀行である連邦準備制度(FED)は、金融政策決定会合であるFOMCを開催した。政策金利を0.25%引き上げ、政策金利を2.00%-2.25%とし、今後の金融政策の指針であるドットチャートでは、前回3回としていた来年の利上げ回数を2回に修正した。

市場は利上げは織り込んでいたものの、よりハト派的(より引き締めに対して柔軟)な態度への転換を期待していたために、急落する結果となった。

米国株式(S&P500)

市場が望んでいたのは、利上げ回数の減少といった程度のものではなく、利上げの停止、バランスシート圧縮の停止の可能性まで踏み込んだものであったのではないだろうか。

むしろパウエル議長は、バランスシート圧縮の方針は変わらないとしており、記者からの質問に答える形とはいえ、火に油を注いだ形となった。

また、FOMCを受けて長期金利が低下したため、ようやく為替もドル安へと動いた。

円ドルレート

米国国債10年金利

米国株式の急落、円高を受けて日本の株式市場も当然のように下落している。

日経平均

ようやく今年8月から始まった株式の弱気戦略が利益を生み出してきた。米国長期金利が3%を超えたところで最初の売り建てを行い、高値更新する中で淡々と積み増しを行ってきた成果が現れてきた。得られた経験としてはピンポイントでの天井を的中することは困難であるが、天井圏であるということが予測できているかどうかが重要であるということだろう。その中で短期的な含み損に怯むことなく、市場環境を見定めていくことに集中したことが良かったと感じている。

今後の方針
現段階では、FEDにバランスシート圧縮の停止の意思がないことが、確認できたことから、当面はこの弱気相場が継続して行くのではないだろうか。今後、利上げ停止→バランスシート圧縮停止というアクションを市場がせがむように下落すると想定している。当面、日本株の売り建て、ドル円の売り建てポジションはキープしていきたい。

下値の目途としては、株式市場が大きく下落してバリュエーション上割安な状況、例えばバフェット指数で1を割る状況(株式時価総額/名目GDP<1)となる水準が目標かもしれない。現在の水準から20%程度下落する必要はあるが。

来年に向けての相場想定

米国のバランスシート圧縮という金融引き締め政策を受けて、世界的な株価調整を予想してきた。一方、市場は2月に大きな調整をした後に、再び9月に高値を取り、10月初旬以降に急落している。

当初の想定では、2月の高値が大天井となり来年年央あたりに底をつけるというような漠然としたイメージを持っていたが、長期金利の上昇が想定よりも遅かったために、調整のスピードも遅れている。

FEDの慎重姿勢も遠因ではあるが、インフレ率の上昇がタイトな労働市場の状況ほど上がってこないのが原因だろう。また、貿易戦争による関税の引き上げの結末として物価上昇圧力を加えることは間違いがないが、関税が引き上げられる前に、駆け込み輸入の影響でタイムラグが生じているために、物価上昇にもタイムラグが生じている。

結果的にFEDが利上げ停止に至るまでの時間が後ずれしたということになるので、株式市場の底入れも後ずれすることになるのではないだろうか。

来年の利上げは?
12月のFOMCでは予想通り利上げが行われると考えているが、来年は年前半に景気減速の兆候がマクロ指標に現れる一方、インフレが進むというFEDにとって困難な状況なるため、FEDの想定である年2回程度の利上げを行うことが難しくだろう。年後半には利上げ停止に追い込まれ、現在行っているバランスシートの圧縮も一時停止ということになるのではないか。

株式市場の底入れは?
現在のリスクオフ環境は、大規模な金融緩和の調整である米国のバランスシート圧縮が原因であるために、FEDがそれを停止するタイミングがマーケットの底入れタイミングということになるだろう。来年の年後半になるのではないか。途中、大きく反発することもあるだろうが、基本は下方トレンドという方針で向かいたい。

パウエル議長と中立金利

世界同時株安が続いている。

米国株式(S&P500)

米中貿易戦争、ブレグジットと材料に事欠かないが、本質は世界的な量的緩和の修正が原因である。欧州、日本は未だ緩和を継続しているが、米国は一足先に金融引き締めへと舵を切った。欧州・日本の緩和余地は少なく、将来の政策手段を確保するために米国のように早く金融正常化に向かいたいところではないか。米国にとっては欧州・日本が緩和を継続している隙に正常化させたいと考えているはずである。

しかしながら米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は11/28日、ニューヨークで講演し、景気を過熱も冷やしもしない「中立金利」を「わずかに下回る」との認識を示した。10月には金融政策について「中立まで長い道のりがある」と警告していたが、金融引き締め姿勢を大きく後退させた。

傍から見ると、トランプ大統領からの金利が高すぎるとのプレッシャーに屈したと見られるが、そうみられても仕方がない状況で、変節をみせるのは大したものではないだろうか。経済学者ではない実務家の議長であるところを見せたと言えるだろう。

では政策金利は中立金利をわずかに下回る程度なのだろうか。中立金利といえばテーラールールが有名であるので参考にしてみたい。アトランタ連銀が親切にもテーラールールに基づくレートを提供してくれており、過去の実際の政策金利との動きを見ることができるために、現状の政策金利の水準感をつかみやすい。

パウエル議長が言うように「わずかに下回る程度」には見えない。寧ろ、将来の景気に対する不透明感を議長自身が示してしまったものと捉えられる。

今後の方針

このパウエル議長の認識の変化は、来年の「利上げ停止」のシナリオに沿ったものであり、戦略の継続に変更はない。反発局面でさらにポジションを上乗せしたために、ほぼ株式の売り建てポジションは完成した。ドル円レートが思いのほか円高に進んでいないのは、ブレグジットの混乱と武田薬品のシャイアー買収(6兆円!)の思惑が原因と考えているが、徐々にドル安圧力が高まるのではないかと期待している。

終わりの始まり?

株式市場が大きな下落を見せる中、米国の第3四半期のGDPが発表された。数字だけを見れば予想を上回り好調であると思われるが、内容をみると景気の下振れ懸念が高まってきたと言わざる負えない。

第3四半期米国GDP

米国株式

米国株式は、ほぼ10%程度の調整を見せている。2月と同様にこの程度の調整で済むと考える株式専門家(セルサイドとか、メディアに出る方々)は多い。そうであれば、現在の売りポジションを利益確定させ、さらに下に行くようであれば、買いポジションを作るということになるが、果たして本当だろうか。

今回の株価下落の本質は、リーマンショック以降、世界各国が行った量的緩和の修正が主因であり、単なる株価のスピード調整ではない。量的緩和の威力は、米国株式を2009年の安値から約4倍に上昇させた。もちろん、インフレや健全な経済成長を勘案すれば、10年で2倍程度の上昇は、健全な株式市場といえるだろう。だた4倍とまでなると多くのバブル的な要素が含まれているはずである。低金利で資金を調達し、自社株買により株価を維持させることが当たり前になっていることなどがそれにあたるだろう。

米国株式(長期)

長期のチャートを見ると、今回の調整がそれほど大きなものではないことがわかる。この上昇を支えてきた量的緩和が終わり、反対のバランスシート圧縮に舵を切った結果としてはこの調整は不十分だ。

逆に言うと、より大きな調整が起こるときには、景気後退が起こるはずである。今回のGDPの内容はそれを密かに示しているように思う。

従って「現在の売りポジションを利益確定させ、さらに下に行くようであれば、買いポジションを作る。」のではなく、一旦反発するようであれば、さらに売りポジションをのせるという方針で行きたい。