債券運用者と株式運用者

米国の長期金利が大きく低下してきている。6/8現在、10年債金利は2.084%となっており、FRBの政策金利であるFFレートの誘導目標2.25-2.50%を下回る水準である。昨日の雇用統計の悪化やトランプ政権の関税政策の懸念によるものだが、今年1月のパウエルFRB議長の豹変が大きい。昨年末の株価の大幅な下落とトランプ大統領の恫喝を受けて、突然ハト派に転換したことである。これにより利上げを想定していた市場は、反対に利下げを想定することとなったのである。

米国10年国債金利

もともと自動車販売や住宅販売に陰りが見えていた米国経済は鈍化しており、金利の動きとは整合的である。当然、金利差が大きな材料となる為替市場では円高が進んでいるが、同時にブレグジット懸念のあるポンド、ユーロ、消費増税を控える円それぞれに問題を抱えるために一方的なドル安とはなっていない。

円ドルレート

ここまでは想定どおりであり、ドル売りポジションは順調に利益を膨らましている。問題は株式の動向である。

S&P500

日経平均

S&P500に比して日経平均が大きく劣後しているのは、想定通りではあるが、現在の世界景気をリードしている米国の株式市場がしぶといのだ。依然高値圏にあり、昨日のように弱い景気指標が出ても、利下げ材料として捉え、株価が上昇するという展開が続いている。

昔から債券運用者は悲観的で、株式運用者は楽観的、大抵の場合は債券運用者が正しいと言われるが、今回も同じ状況に思える。2000年のITバブル崩壊、2009年のリーマンショックの時も株式が大きく調整したのは、実際に利下げが起こってからであり、景況感の悪化が知れ渡ってから株価は調整したのである。であるならば今回も実際に利下げが行われるたびに株価は調整し、日経平均の売り建てが大きく収益に貢献してくるのは、9月のFOMCのころかもしれない。

他のリスク資産もハイイールド債を見る限り、依然高値圏にあると言える。やはり実体経済の悪化が伴わなければ、グローバルな過剰流動性環境の中では、行き場(金利)を求める資金はリスク指向を高めてしまうのだろう。

米国ハイイールド債

一方で大型株に先行すると言われている小型株の戻りは鈍い。またGAFAといわれるプラットフォーマー企業の株価(今の若いファンドマネージャーたちのお気に入り)やNVIDIA(GPUの大手)の株価の戻りが鈍いところを見ると、市場も半信半疑なのではないかと思う。

米国RUSSEL2000

今後の方針

当初、現在の株式売り建て、ドル円ショートのポジションは、バランスシート圧縮の停止が行われるまでとしていたが、上記の動きから利下げが実際に行われるまで延長としたい。

実体経済の悪化が目に見えるようになる前に、なんらかのショックがきっかけになるかもしれない。例えば経営不安の絶えない欧州系銀行の破綻や保有しているCDSの保証先の破綻などが挙げられる。こうして想定している時点で問題ではないのかもしれないが、気が付いていない大きなリスクがあるような気がしてならない。

一方で、世界景気が、世界的な積極財政出動や金融緩和に支えられて持ち直し、株価はこのまま持ちこたえるかもしれない。この場合は速やかに損切りを行うことになるが、可能性は低いと思っている。

個人的には、景気のサイクルによる劣後企業の撤退や退場は、経済を健全に発展させるために必要なことだと考えており、日本のように低金利でゾンビ企業を生きながらえさせることは、デフレを助長させ、経済の活性化をそぐことになるので、過度な金融政策による延命には反対である。現代金融理論(MMT)の帰結が日本であるならばやめておいた方が良いと思う。

第1四半期米国GDP

米商務省が26日に発表した第1・四半期の実質国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値は、年率換算で前期比3.2%増だった。

事前予想の2.3%を上回る結果となった。在庫と純輸出が全体を押し上げ、個人消費と企業設備投資の減速を補った。

予想を上回る結果を好感し、NYダウは80ドル程度上昇したが、一方で長期金利は小幅に低下した。伸びが主に在庫で押し上げたことや個人消費や企業設備投資が減速したことで逆に利下げ観測が強まったことから、債券市場は株式市場と異なる反応を示したようである。

では、いつものように、内容を確認してみる。

個人消費

米経済の約7割を占める個人消費は1.2%増加、前期の2.5%からさらに減速したが、ほぼ予想のどおりとなった。

前期の2.5%は、より大きな減速を想定していた中では、概ね堅調であるという評価であったが、今回の水準は大きな懸念を抱く水準。

固定投資

固定資産投資は1.5%増。前期の3.1%から大きく低下した。

設備投資も2.7%増と、前期の5.4%から大きく減少。構築物投資が3期連続でマイナス、機器投資は0.2%増と2016年以来の小幅な伸び。

住宅投資は2.8%減、5期連続のマイナス。住宅投資は、関連消費に大きく影響を与えるために個人消費へのネガティブな要因となっている。

輸出入

輸出は、3.7%増、前期の1.8%から増加。輸入は、3.7%減。

結果として純輸出は、大きくプラスにGDPに寄与した。

政府支出

政府支出は、2.4増と、前期の0.4%減から回復。2017年以降で最大の寄与。

まとめ

  • 米国GDPは予想を上回り、数字としては素晴らしい結果。
  • 変動の大きい純輸出、在庫投資を除けば1.5%程度の成長。景気拡大の持続には疑念が残る。
  • 個人消費の減速は、大きくないものの徐々に減速している印象。
  • 住宅投資は、5四半期連続でマイナス成長。
  • 企業設備投資も前期の反発から反落。

前回、設備投資が反発し、個人消費が底堅さを見せたことで、「米国経済はしぶとい」と書いたが、今回は、予想を上回る結果であるGDPの伸びほど評価できない。内容が持続可能なものではないためだ。これを受けて利下げ観測が強まり、金利が低下したということも納得できる。

一方で株式市場の反応には違和感がある。昔から株式関係者は楽観的で債券関係者は慎重なものが多く、そして最終的には債券関係者の方が正しい。もしくは株式関係者も利下げ期待により株式を強気に見たのかもしれないが、今のFEDは、株価が下がらない限り利下げを行わないだろう。

5/1にFED(連邦準備制度)は金融政策決定会合であるFOMC会合を開き、政策金利を2.25%から2.5%のレンジに維持することを決定したが、決定自体は事前の市場予想通りであり、サプライズはない。パウエル議長は今回の会合後の記者会見で「緩和側と引き締め側のどちらにも動く強い理由は見当たらない。」とし、中立の姿勢を強調した。

しかしその一方で、金融市場は昨年末の株安を受けてハト派に転換したパウエル議長の姿勢を過大評価しており、年内の利下げを期待している。利下げが行われ、企業業績が拡大するなば、短期的には現在の株価水準は維持できるかもしれないが、為替市場はドル安に向かうことになろう。

リスク資産(株式、ジャンク債、etc)はすでにバブル的な水準にあると考えているため、なんらかの調整が行われると思うが、そのきっかけや時期は、やはりわからない。だたし危険な水準だということはわかる。なるべくキャッシュポジションを高めておこうと思う。

 

米国株式、最高値に接近

とうとう米国株式が再び市場最高値に接近してきた。ナスダックはすでに最高値を更新しており、代表的な指標であるダウ平均やS&P500 も時間の問題かもしれない。

2018年後半の世界同時株安によって、FEDの金融引き締めは撤回を余儀なくされ、利上げを停止し、バランスシートの圧縮を9月までに終了することしたことから、株式市場の反発が始まったわけである。

もともと、金融市場から資金を吸い上げるバランスシート圧縮により、リスク資産の下落を予測していたわけだが、そのきっかけとして長期金利の上昇(3%超え)を想定していた。その長期金利は低下しており、再び高すぎない金利のもとでリスク資産が堅調となる適温相場が復活したのである。市場が想定する市場変動率(リスク)を意味するVIX指数もまた急落前の水準まで低下している。

S&P500

米国10年国債

VIX指数

通常、この局面での金利低下は景況感の悪化とともに株価下落を伴うものなのだが、これまでの歴代議長よりも素早いパウエル議長の変身が奏功しているのだろう。

はたしてこの状況は持続可能なのか?

この局面においてもっとも重要な点は、リスク資産のバリュエーション水準(割高、割安)だろう。VIX指数にみられるようにリスクは過小評価されており、株価水準はバフェット指数(株式時価総額VS名目GDP)はテックバブル(2000年)当時の水準、リスクの高いハイイールド債は、高値を更新している。

ハイイールド債

つまり代表的なリスク資産は非常に割高な水準まで買われている。ただし、いくつかの指数は戻り切っていない。株価動向の先見性を示す小型株や新興国通貨は戻りが鈍くなっている。

ラッセル2000(米国小型株指数)

トルコリラ

現在の状況はバブルの延命局面であり、遠かれ調整局面が訪れるのではないかと考えている。日本株の売り建て、ドルの売りは依然ホールドしているが、ピンポイントで高値を当てることは難しいと痛感している。キャッシュポジションを高めて下落に備えることとしたい。

2019年3月FOMC

3月19日から20日にかけて、米国の中央銀行に相当するFED(連邦準備制度)は金融政策決定会合(FOMC)を行なった。

会合の結果は、金利については現状維持。会合参加者の今後の利上げ見通しを表にしたドットプロットによると、今年中の利上げはほぼないという結論となっている。11人が年内の利上げなし、4人が1回の利上げ、2人が2回の利上げとしている。

バランスシート圧縮については具体的な道筋が示された。「2019年5月より債券保有額の減額量を月間300億ドルから150億ドルに減額する。」「2019年9月末に債券保有量の減額を停止する。」

FOMC後、米国株はやや上昇、ドル円は下落し、その後、世界景気の不安から、金利が大幅に低下し、株価も大きく下落した。

とうとうバランスシート圧縮の停止が現実のものとなりそうだ。ドル円やその後の株価下落は、2月19日の記事に書いているとおり、FEDの緩和姿勢に対して、市場がそれを景気悪化の証左として捉え始めたのではないか。

現在のマーケットでは、これらの悪材料はむしろ金融緩和の材料として捉え、売り材料としていないために、株価が大きく戻しているわけだが、いずれ限界がくるのではないか。いよいよ金融緩和に舵をきるような局面において、もう一度下落する局面が訪れる可能性が高いと踏んでいる。その際には円高もセットでやってくると想定している。

今後の方針

当初、現在の株式売り建て、ドル円ショートのポジションは、バランスシート圧縮の停止が行われるまでとしていたが、米国の金融当局の株価下支え策や中国の刺激策のために、株式、為替とも想定ほど下落していない。こうした株価対策などが行われない方が、その後の回復も早いのであるが、日本の失われた30年からあまり学んでいないようだ。

従って、今回の調整は実際に利下げが行われるまで続くのかもしれない。市場が利下げを要求するように、株式、ドルが下落するという動きも考えられる。

いづれにしても、バランスシート圧縮が継続する9月末までに利益確定を目指したい。

国内景気のはなし

3月 7日に、政府は 1 月の景気動向指数の一致指数の基調判断を「下方への局面変化」に下方修正した。これは前回 2014 年の消費増税以来のこと。

普段あまり国内景気の報告をしていないが、決して手を抜いているわけではなく、日本経済のものづくり経済という特性から、世界景気のドライバーである米国経済、中国経済の動向を見ている方が、正しい判断ができるという考えからだ。

残念ながら一党独裁国家である中国経済の統計は到底信頼に足るものではないため、ほとんど無視している。かわりにかかわりの深い米国、オーストラリア、カナダ経済の動向をもって代替としているが、結局のところもっとも比重が高い米国経済の分析に時間をかけているわけだ。

中国経済の失速は、オーストラリア経済の失速をもたらしているが、今週から始まった全人代では、目標とする成長率を 6.0~6.5%と低めに定め、大型減税(2 兆元=33 兆円)や社会保険料削減を打ち出した。しかし、過去行ってきた固定投資は行わないようだ。過剰設備による財政の悪化を招く政策は行わないということだろう。

さて国内景気を見る上でのポイントだが、人口減少にあえぐ国内においては消費よりも輸出、ひいては生産の状況に注意を払うべきだろう。

2月28日発表の1 月の鉱工業生産は前月比▲3.7%低下と大幅な低下となった。生産のマイナス寄与度が大きかったのは自動車工業、電機・情報通信機械工業など日本の輸出の基幹産業である。

対中国の輸出比率は約20%で米国向けとほぼ同程度ある。さらに中国と関連の深い国(香港、台湾、シンガポールなど)を合計すると15%程度あることから、中国経済の影響をまともに受けるわけである。

結局のところ、日本経済は、中国経済の動向ひいては米国経済の動向次第ということになる。米中貿易協議の結果に大きな影響を受けることになるが、かといって協議が伝えられているように合意に至っても、中国の過剰設備・債務が解決するわけではないので楽観はできないのではないか。