来年に向けての相場想定

米国のバランスシート圧縮という金融引き締め政策を受けて、世界的な株価調整を予想してきた。一方、市場は2月に大きな調整をした後に、再び9月に高値を取り、10月初旬以降に急落している。

当初の想定では、2月の高値が大天井となり来年年央あたりに底をつけるというような漠然としたイメージを持っていたが、長期金利の上昇が想定よりも遅かったために、調整のスピードも遅れている。

FEDの慎重姿勢も遠因ではあるが、インフレ率の上昇がタイトな労働市場の状況ほど上がってこないのが原因だろう。また、貿易戦争による関税の引き上げの結末として物価上昇圧力を加えることは間違いがないが、関税が引き上げられる前に、駆け込み輸入の影響でタイムラグが生じているために、物価上昇にもタイムラグが生じている。

結果的にFEDが利上げ停止に至るまでの時間が後ずれしたということになるので、株式市場の底入れも後ずれすることになるのではないだろうか。

来年の利上げは?
12月のFOMCでは予想通り利上げが行われると考えているが、来年は年前半に景気減速の兆候がマクロ指標に現れる一方、インフレが進むというFEDにとって困難な状況なるため、FEDの想定である年2回程度の利上げを行うことが難しくだろう。年後半には利上げ停止に追い込まれ、現在行っているバランスシートの圧縮も一時停止ということになるのではないか。

株式市場の底入れは?
現在のリスクオフ環境は、大規模な金融緩和の調整である米国のバランスシート圧縮が原因であるために、FEDがそれを停止するタイミングがマーケットの底入れタイミングということになるだろう。来年の年後半になるのではないか。途中、大きく反発することもあるだろうが、基本は下方トレンドという方針で向かいたい。

パウエル議長と中立金利

世界同時株安が続いている。

米国株式(S&P500)

米中貿易戦争、ブレグジットと材料に事欠かないが、本質は世界的な量的緩和の修正が原因である。欧州、日本は未だ緩和を継続しているが、米国は一足先に金融引き締めへと舵を切った。欧州・日本の緩和余地は少なく、将来の政策手段を確保するために米国のように早く金融正常化に向かいたいところではないか。米国にとっては欧州・日本が緩和を継続している隙に正常化させたいと考えているはずである。

しかしながら米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は11/28日、ニューヨークで講演し、景気を過熱も冷やしもしない「中立金利」を「わずかに下回る」との認識を示した。10月には金融政策について「中立まで長い道のりがある」と警告していたが、金融引き締め姿勢を大きく後退させた。

傍から見ると、トランプ大統領からの金利が高すぎるとのプレッシャーに屈したと見られるが、そうみられても仕方がない状況で、変節をみせるのは大したものではないだろうか。経済学者ではない実務家の議長であるところを見せたと言えるだろう。

では政策金利は中立金利をわずかに下回る程度なのだろうか。中立金利といえばテーラールールが有名であるので参考にしてみたい。アトランタ連銀が親切にもテーラールールに基づくレートを提供してくれており、過去の実際の政策金利との動きを見ることができるために、現状の政策金利の水準感をつかみやすい。

パウエル議長が言うように「わずかに下回る程度」には見えない。寧ろ、将来の景気に対する不透明感を議長自身が示してしまったものと捉えられる。

今後の方針

このパウエル議長の認識の変化は、来年の「利上げ停止」のシナリオに沿ったものであり、戦略の継続に変更はない。反発局面でさらにポジションを上乗せしたために、ほぼ株式の売り建てポジションは完成した。ドル円レートが思いのほか円高に進んでいないのは、ブレグジットの混乱と武田薬品のシャイアー買収(6兆円!)の思惑が原因と考えているが、徐々にドル安圧力が高まるのではないかと期待している。

終わりの始まり?

株式市場が大きな下落を見せる中、米国の第3四半期のGDPが発表された。数字だけを見れば予想を上回り好調であると思われるが、内容をみると景気の下振れ懸念が高まってきたと言わざる負えない。

第3四半期米国GDP

米国株式

米国株式は、ほぼ10%程度の調整を見せている。2月と同様にこの程度の調整で済むと考える株式専門家(セルサイドとか、メディアに出る方々)は多い。そうであれば、現在の売りポジションを利益確定させ、さらに下に行くようであれば、買いポジションを作るということになるが、果たして本当だろうか。

今回の株価下落の本質は、リーマンショック以降、世界各国が行った量的緩和の修正が主因であり、単なる株価のスピード調整ではない。量的緩和の威力は、米国株式を2009年の安値から約4倍に上昇させた。もちろん、インフレや健全な経済成長を勘案すれば、10年で2倍程度の上昇は、健全な株式市場といえるだろう。だた4倍とまでなると多くのバブル的な要素が含まれているはずである。低金利で資金を調達し、自社株買により株価を維持させることが当たり前になっていることなどがそれにあたるだろう。

米国株式(長期)

長期のチャートを見ると、今回の調整がそれほど大きなものではないことがわかる。この上昇を支えてきた量的緩和が終わり、反対のバランスシート圧縮に舵を切った結果としてはこの調整は不十分だ。

逆に言うと、より大きな調整が起こるときには、景気後退が起こるはずである。今回のGDPの内容はそれを密かに示しているように思う。

従って「現在の売りポジションを利益確定させ、さらに下に行くようであれば、買いポジションを作る。」のではなく、一旦反発するようであれば、さらに売りポジションをのせるという方針で行きたい。

第3四半期米国GDP

米商務省が26日に発表した第3・四半期の実質国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値は、年率換算で前期比3.5%増だった。

事前予想の3.3%を上回る結果となった。輸入関税の導入に伴い大豆輸出が減少したものの、個人消費が大幅な伸びとなったほか、在庫投資も大幅に増えた。

米経済成長は9年連続で続いており、潜在成長率とされる2%を超えた。為替は予想を上回る結果にややドル高に反応したが、株安を嫌気し、円高に向かうこととなった。

では、いつものように、内容を確認してみる。

個人消費

米経済の約7割を占める個人消費は4.0%増え、2014年第4四半期以来、約4年ぶりの高い伸びとなった。雇用拡大と大型減税で可処分所得が増え、自動車など耐久消費財の消費が6.9%増加した。

トランプ政権による減税の効果や好調な雇用状況が金利上昇の悪影響を抑えた格好だ。

固定投資

固定資産投資は0.8%増。前々期の11.5%、前期の8.7%からさらに減速した。

設備投資も0.4%増と、前々期の8.5%、前期の4.6%から大きく減速。金利上昇に加えて、貿易戦争への懸念が企業の投資計画に影響を与えたと考えられる。トランプ政権による保護貿易政策の負の側面が現れたものだ。

住宅投資も、-4.0%と3四半期連続のマイナス。住宅ローン金利に影響を与える超長期債の金利上昇が大きな圧力となっている。

輸出入

輸出は、-3.5%減、輸入は、9.1%増。輸出に関してはトランプ政権の関税拡大への対米報復関税を睨んだ発効前の輸出前倒しが剥落したものだ。

輸入は好調な個人消費にみられるように、消費財や自動車の輸入が牽引したもの。

政府支出

政府支出は、3.3%増と、16年以降で最大の伸びを見せた。議会による債務上限の引き上げが行われた影響が継続している。

まとめ

  • 米国GDPが予想を上回った主因は、個人消費、在庫投資。
  • 個人消費は、減税・好調な雇用環境の効果が引き続き金利上昇の影響を抑えている。
  • 一方で、住宅投資には金利上昇の影響が大きく現れている。
  • 貿易戦争の影響が確実に輸出に現れた。
  • 同様に、貿易摩擦を懸念した企業設備投資にもブレーキがかかる。

見かけ上、予想を上回る結果であったが、内容は個人消費だのみ。在庫の増加は前向きな投資ではなく貿易戦争による値上げを嫌った駆け込みの可能性が高い。いずれ在庫調整という形でGDPにマイナスの影響を与える。また最近の株価下落も負の資産効果として個人消費にマイナスの影響を与えよう。

好調な個人消費、貿易戦争によるインフレ圧力から、FEDは想定通り年内もう一度利上げを行うものと思われるが、FEDの想定する来年3回の利上げは、実現不可能となるだろう。

ようやく株安、円高、それでも戦略はかわらず

ようやく株価が下落してきた。特に何も新たな材料がない中での急落であったため、市場関係者は、中国との貿易懸念やすでに高くなっていた金利に原因を求めている。然るに「ファンダメンタルズは堅調であり、急ピッチの上昇の調整の範囲内」などと解説している。

日経平均

米国株式

市場関係者が言うように、2月と同じように急ピッチな上昇の調整となる可能性もあるが、これまでのバブル崩壊のパターンと同じように、ある日何事もなく株価が調整を始めたと考えるのが妥当ではないか。

2月の急落では3%を超えた長期金利も同時に低下したが、今回の急落ではそれほど低下していない。これが株価の急落にかかわらず、ドル円レートが大きく円高に向かわない理由でもあるが、長期金利が低下しない以上、株価の調整は続くのではないか。

ドル円レート

米国のバランスシート圧縮と利上げは、確実にリスクの高い資産から資金を還流させている。