貧乏になっていく日本人

先日、衝撃的な記事を見つけてしまった。日本人の給料が90年以降ほとんど上がっていないという記事だ。国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、1990年の平均給与は425万2000円(1年勤続者、以下同)であったが、2017年は432万2000円となり、27年間で平均給与はわずか7万円しか上がっていないということらしい。

ひどい日本人の給与

バブル崩壊や深刻なデフレの影響、少子高齢化による国内需要の減少が原因とも言われているが、それにしてもひどいものである。さらにグローバル比較してみるとより深刻さがわかる。その記事(東洋経済オンライン:日本人の給料がほとんど上がらない5つの要因、3月2日)によると

1997年=100とした場合の「実質賃金指数」で見た場合、次のようなデータになる(2016年現在、OECDのデータを基に全労連作成)。

・スウェーデン……138.4
・オーストラリア…… 131.8
・フランス……126.4
・イギリス(製造業)……125.3
・デンマーク……123.4
・ドイツ……116.3
・アメリカ……115.3
・日本……89.7

本当にひどいものだ。たまに海外旅行に行くと年々、日本人が貧乏になっていることを実感する。我々が国内で実感する円の価値よりも海外の価値は年々低くなっているからだ。海外の人から見れば、自国通貨の価値が高いわけだから、そりゃインバウンドも増えるだろうと思う。これを為替レートで調節するとすれば、例えばアメリカドルであれば、ざっくり80円くらいになる。

かつて米系投資顧問で働いていたとき、年に一度、報酬の更改をするのだが、ベース給与は、たとえ日本がデフレでも、本国アメリカのインフレ率が考慮されて数パーセントずつは上がっていた。もちろんファンドマネージャーという職種から、成果報酬の要素が大きいため、ボーナス次第で年収が左右されるわけだか、ベースとなる給与の昇給は大きい。このため上記のような実質給与の低下などは実感していなかったが、あらためて数字をみると日本の給与の特異性が際立つ。

いびつな利益配分

企業の利益配分の観点でいうと、企業のステークホルダーへの配分をどう考えるのか重要である。つまり株主、従業員、顧客へどう利益を分配するのかという点だ。株主には配当で、従業員には給与で、顧客には価格で分配するわけだが、配当・自社株買は順調に伸び、サービス価格はデフレの影響で下がって顧客利益は上がっているものの、給与だけが、大きく下がっているということである。

企業の従業員は本当に怒っていいと思う。一方で上記のステークホルダーには含めていないが、企業自身(経営者)は、内部留保という形でため込んでいる。その額なんとGDPに匹敵する500兆円。さらに役員報酬だけは、外資系にならってウナギ登りになっている。日産のゴーン前会長ほどでは無いにしろ、経営成績に見合わない巨額報酬を受け取る経営者は多い。

先進国並みの豊かさ

こうした企業の行動が、日本人を国際的に貧しくしているのだと思う。成果のあげられない経営者への報酬を減らし、従業員給与を引き上げ、サービス価格を適切なものへ引き上げることで、先進各国並みの豊さをとり戻すことができるのではないか。

政府は、企業寄りの姿勢を改め、内部留保課税などを通じて傲慢な経営者の姿勢を変えるような政策を促してほしい。この状況が続けば、先進国のなかでより貧しくなっていくのは間違いないだろう。その過程で為替市場での調整(円高)も起こるだろうが、日銀にはもう手はないように思う。

国内景気のはなし

3月 7日に、政府は 1 月の景気動向指数の一致指数の基調判断を「下方への局面変化」に下方修正した。これは前回 2014 年の消費増税以来のこと。

普段あまり国内景気の報告をしていないが、決して手を抜いているわけではなく、日本経済のものづくり経済という特性から、世界景気のドライバーである米国経済、中国経済の動向を見ている方が、正しい判断ができるという考えからだ。

残念ながら一党独裁国家である中国経済の統計は到底信頼に足るものではないため、ほとんど無視している。かわりにかかわりの深い米国、オーストラリア、カナダ経済の動向をもって代替としているが、結局のところもっとも比重が高い米国経済の分析に時間をかけているわけだ。

中国経済の失速は、オーストラリア経済の失速をもたらしているが、今週から始まった全人代では、目標とする成長率を 6.0~6.5%と低めに定め、大型減税(2 兆元=33 兆円)や社会保険料削減を打ち出した。しかし、過去行ってきた固定投資は行わないようだ。過剰設備による財政の悪化を招く政策は行わないということだろう。

さて国内景気を見る上でのポイントだが、人口減少にあえぐ国内においては消費よりも輸出、ひいては生産の状況に注意を払うべきだろう。

2月28日発表の1 月の鉱工業生産は前月比▲3.7%低下と大幅な低下となった。生産のマイナス寄与度が大きかったのは自動車工業、電機・情報通信機械工業など日本の輸出の基幹産業である。

対中国の輸出比率は約20%で米国向けとほぼ同程度ある。さらに中国と関連の深い国(香港、台湾、シンガポールなど)を合計すると15%程度あることから、中国経済の影響をまともに受けるわけである。

結局のところ、日本経済は、中国経済の動向ひいては米国経済の動向次第ということになる。米中貿易協議の結果に大きな影響を受けることになるが、かといって協議が伝えられているように合意に至っても、中国の過剰設備・債務が解決するわけではないので楽観はできないのではないか。

第4四半期米国GDP

米商務省が29日に発表した第4・四半期の実質国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値は、年率換算で前期比2.6%増だった。

事前予想の2.2%を上回る結果となった。個人消費は鈍化したものの、企業の設備投資が拡大した。

通年のGDPは3.1%増となり、トランプ大統領が目標とする3%をかろうじて上回った。予想を上回る結果にドル高に反応し、長期金利も2.7%台へと上昇したが、株価は小幅に下落した。

では、いつものように、内容を確認してみる。

個人消費

米経済の約7割を占める個人消費は2.8%増加、前期の3.5%から減速し、予想の3%を下回った。

12月小売売上高の大幅マイナスを受けて、より大きな減速を想定していた向きもあり、概ね堅調であるという評価。

固定投資

固定資産投資は3.9%増。前期の1.1%から回復した。

設備投資も6.2%増と、前期の2.5%から大きく回復。中でも機器投資は6.7%増、知的財産投資は13.1%増と高い伸びを見せた。

住宅投資は、-3.5%と4四半期連続のマイナス。住宅ローン金利に影響を与える超長期債の金利上昇が大きな圧力となっている。

輸出入

輸出は、1.6%増、前期のマイナスから回復。輸入は、2.7%増。

輸出に関しては対米報復関税を睨んだ発効前の輸出前倒しの剥落が一巡した結果。

政府支出

政府支出は、0.4%増と、小幅ながらプラスを維持した。

まとめ

  • 米国GDPは予想を上回り、底堅さを見せた。
  • 個人消費は、減速しながらも底堅さを維持している。
  • 住宅投資は、4四半期連続でマイナス成長。金利上昇の影響が大きく現れている。
  • 企業設備投資が驚くべきことに回復。前期急増した在庫投資も縮小した。

予想を上回る結果であったが、何よりも驚いたのは、懸念していた在庫調整のマイナスの効果を補って設備投資が伸びたことである。個人消費も株価の大幅な下落にも関わらず、堅調さを維持しており、正直、米国経済はしぶとい。

これを受けて金利上昇となったが、この内容では順当な動き。利上げ再開とまではいかないが、資産圧縮停止も不透明になっただろう。

このまま経済が底固く推移した場合には金利上昇、減速した場合には資産圧縮の停止、利下げとなるが、現在のマーケットは、金利上昇には目をつむり、減速しても利下げで景気を支えてくれるという都合の解釈をしている状況だ。いつまでこの状況が続くのか見ものである。

中央銀行の資産圧縮の停止に至る株価下落、ドル安を見越してポジションをとっているが、かなり含み利益を失った。しかしながら、こういうときの市場は一瞬で悲観に変わることが常なので、悲観も落胆もせずにフラットに市場を見て行こうと思う。

 

米国株の反発

米国株が大きく反発している。既に昨年12月初旬の下落前の水準まで戻してきた。FRBの金融政策の緩和期待や対中経済対話の進展期待が大きなドライバーとなっている。

SP500

一方で日本株の戻りは米国株ほどに戻っていない。

日経平均

米国には金融緩和余地がある一方、日銀の金融政策にはもう手が残っていないことや、米国の金融緩和による円高圧力を警戒せざるを得ない。

日本株の空売りを行っている立場としては、この日本株の劣後に救われてはいるが、今後、大本の米国株式がのように推移するのかが重要になってくる。

米国の政府機関閉鎖の影響で、経済指標の発表が遅れているが、先日発表された小売売上高が歴史的に大きく低下したことなどからすると、徐々に実体経済の悪化が表面化しつつあると考えていいだろう。

現在のマーケットでは、これらの悪材料はむしろ金融緩和の材料として捉え、売り材料としていないために、株価が大きく戻しているわけだが、いずれ限界がくるのではないか。いよいよ金融緩和に舵をきるような局面において、もう一度下落する局面が訪れる可能性が高いと踏んでいる。その際には円高もセットでやってくると想定している。

2019年1月FOMC

1月29日から30日にかけて、米国の中央銀行に相当するFED(連邦準備制度)は金融政策決定会合(FOMC)を行なった。

会合の結果は、「政策金利が相応しいかを決定するにあたっては忍耐強くあるべきだ」とし、現状の政策金利を維持するというもので、想定された範囲のものであった。

年始の段階でパウエル議長は、バランスシート圧縮に関し、「市場の混乱の要因が、バランスシートだとは思っていないが、もし違った結論に達したら、方針の変更に躊躇しない。」と発言していた。

今回から加えられたバランスシート関連の発言は、「実体経済や金融市場の今後の動向によって、バランスシート正常化の完了計画について適宜変更する用意がある。更に、将来の経済状況によってより緩和的な金融政策が必要となった場合には、バランスシートのサイズ変更を含めたすべてのツールを利用する準備がある。」となっており、若干踏み込んだトーンになった。

昨年末の世界的な株価下落の圧力に屈し、市場に安心感を与えるために、このようなハト派的な発言を加えたということだろう。その甲斐もあって会合結果を受け、株価は上昇した一方で、ドル円は下落した。事前に想定されていたにも関わらず、素直に反応したといえる。

ただし重要なことは、FEDは何もしていないということである。金利を引き下げたわけでもなく、バランスシート圧縮のスピードを変えたわけでもない。粛々と市場からは、資金が引き上げられているのである。あくまで市場がさらに下落するまでは何もしないということを示したのである。

従って、株式の売り建て(ショート)及びドル円の売りポジションの手仕舞いはまだ先だと考えている。