市場概観、リスクと展望

トランプ大統領のツイートで大きく市場が動く状況が続いている。米中貿易戦争を巡る発言に一喜一憂する展開となっているが、本質的には世界経済の減速が背景にあり、米国の金融引き締め政策から緩和政策への転換が大きなドライバーではないだろうか。まず市場の動向を概観し、存在するリスク要因、長期的な展望を考えてみたい。

市場動向の概観

まず株式市場から。

日経平均

S&P500

米国株式は、金融緩和期待により、昨年12月の下落から回復し、高値を更新した後に、実際に7月のFOMCにて0.25%の利下げが行われ、さらなる利下げを要求するかのように調整している状況。

一方で日経平均は、昨年の安値を底割れしていないものの、安値圏に留まっている。内需産業は10月の消費増税を控え、輸出産業は円高により圧迫を受けているために米国株式から劣後している。

ドル円レート

ドル円相場は、米国の利下げ期待による長期金利の大幅な低下を背景として円高が進んでいる。より大きな円高を想定していたが、欧州、中国などグローバルな金利低下の影響により、ドルが相対的に強くなっていることが要因だろう。

米国長期金利(10年)

「米国の金融引き締め政策」を理由に、昨年央から、日本株の空売り、ドル円の売りを行っているが、依然ポジションは保有している。

こうしてみると中長期的には概ね予想通りの動きとなっているが、短期的な動きに翻弄されたり、金利低下で恩恵のある金の買いを見逃していたりと反省点も多い。収益を生み出すにはつくづく胆力が重要だということを思い知らされる。

世界経済のリスク

  1. 貿易戦争
  2. ブレグジット
  3. イタリア・アルゼンチン
  4. 香港デモ
  5. 中国の減速

ざっとこのようなものを想定している。順に考えてみよう。

貿易戦争は、一般に覇権争いと言われているが、そのとおりだろう。トランプ大統領のポピュリズム政策ではなく、米国議会の意思でもあり、早期の決着はありえない。ただし、逆に選挙を控えたトランプ大統領の方が選挙のない習近平主席よりも妥協する可能性が高い点が波乱要因ではないだろうか。

ブレグジットに関しては、ボリス・ジョンソン政権の下では、10 月 31 日に No Deal Brexit に至る確率はかなり高いと見るべきだろう。

アルゼンチンの通貨ペソが急落し、IMFの助けを仰ぐことになったが、アルゼンチンの通貨危機は今に始まったことではない。とは言え、新興国の通貨危機がグローバルな信用収縮の発端となることもあるため、注意は必要である。さらにイタリアの政局不安が、ブレグジットで揺れるEUにさらなるダメージを与える可能性がある。

香港のデモは、穏便に収束する気配が見えない。旧宗主国の英国は影響力を行使せず、米国も介入する姿勢を見せていないが、中国による武力介入があった場合には、世界的な批判・制裁が巻き起こる可能性がある。

中国の景気減速は、米国との貿易戦争が発端ではなく、過剰設備やシャドウーバンキングの問題、成長の限界といった問題が背景である。中国経済の影響を受けるオーストラリア経済が、数十年ぶりの景気後退に陥る可能性があることや、対中輸出の比率が高いドイツ経済が不調であることから、中国の減速は深刻であると思える。

こうしたリスクを眺めてみると短期的に解決する可能性があるのは「香港デモ」「ブレグジット」「アルゼンチン・イタリア」、少なくとも年内の解決が難しいのは「貿易戦争」「中国減速」。しかしながらインパクトが大きいのは圧倒的に後者であり、なかでも中国の減速は、本質的な問題である。

長期的な展望

はたして、世界的な低金利政策、金融緩和がこれらのリスクを抑え込めるのか。因みに各国の金利は大体このような状況だ。(10年国債)

米国 1.5%
ユーロ -0.7%
英国 0.6%
日本 -0.3%
中国 2.8%
カナダ 1.1%
豪州 0.9%

国家財政の問題があるギリシャ2.1%、イタリア1.5%でこの金利である。何かがおかしくはないだろうか。米国とイタリアが同じ金利となる必然性が考えられない。それほどユーロは強固なのか、まさにブレグジットが起ころうとしているのに。ましてここまでマイナス金利が常態化するとは考えらなかった。まさに「質への逃避」による国債バブルである。資金の需要と供給がアンバランスとなっていることの傍証ではないだろうか。

しかもこの状態が継続していくことはほぼ間違いない。各国が利下げモードに入っているためだ。こうしてみると先頭を走っていた日本に各国が追い付いているとも言える。これまで日本がたどった道を世界経済も進んでいくように思える。すなわち低成長・低インフレの世界または、成長を実感できない経済とも言える。

低金利は、貯蓄の多い老人から貯蓄の少ない若年への資金の移転でもあるので、高齢化が進む世界の先進国の必然かもしれない。

結局のところ、政府はこの低金利を利用し、安いコストで国債を発行し、財政出動を繰り返すことになるのではないか。まさに現代貨幣理論(MMT)の目指すところである。大規模な金融緩和という実験のあとは、大規模な財政出動という実験が始まると思う。

市場の動きに関しては、これまでの日本が経験してきたような状況がしばらく続くのではないだろうか。これに関しては時間をかけて考えてみたい。考える時間は少しあると思う。

現在の日本株売り・ドル円売りのポジションは、少なくとも次回の米国利下げまでは保有しておこうと思う。

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