株式・為替・金利概観

トランプ政権と議会との対立から過去最長の政府機関閉鎖、弱い企業業績、経済指標にもかかわらず、年始からの株式市場は値を戻してきている。これは年末にかけての急激な下落による反動やパウエル議長のハト派発言を受けてのものであるが、このまま反騰が継続していくのか、またそのほかの資産はどう動いて行くのかを簡単に検討してみたい。

株式市場

まず株式市場であるが、これまでも述べてきたように根本的な要因は、FRBによる金融引き締め、特にバランスシートの圧縮が原因である。中央銀行による膨大な資金供給(中央銀行バブル)の正常化を進めることは、市場からのドル資金の吸収であるので、低金利環境下で利回りを追及してきたリスクマネーがリスク資産から引き上げられるのは自然なことであろう。

バランスシート圧縮は株価下落の原因ではないとしていたパウエル議長が、市場の圧力に屈し、利上げ続行やバランスシート圧縮を見直すと表明したことで市場の下落圧力は一旦緩んだが、最終的には実際に金融引き締めを停止するまで、下落圧力は継続するのではないか。

為替

イギリスのブレグジットの混乱、ユーロ圏の経済不振によりドルは相対的に大きくドル安とはなっていない。ドルよりも問題のある通貨が多いので消去法的にドルが値持ちしているということだろう。しかしながら対円で考えると、今後パウエル議長の表明通り、金融引き締め停止に向かうとするならば、米金利低下によるドル安圧力は高まっていく。日本の金利はこれ以上下がらないので対円でのドル安は進んでいくのではないか。最終的には100円割れを想定している。

債券

国内債券金利は0.05~0.10%で推移しており、今後も金利が大きく上昇することはないだろう。かといって低下にも限界があるので金融資産としての魅力はほとんどない。一方、外国債券は米国債の金利低下による価格上昇期待は大きいものの、為替での円高リスクを考えれば、魅力的ではないように思う。

総じて悲観的な見方ばかりになったが、むしろ楽しみは増してきている。株式をバーゲンで買えるチャンスや強い円で外国資産を沢山買えるチャンスがやってくる可能性が高まっているわけだから。

確定拠出年金の資産配分

昨年の1月にお伝えした確定拠出年金の資産配分であるが、すでにリスク回避的な配分にしていることから今回の変更は行っていない。

確定拠出年金内の代表的なインデックスファンドの動き

米国の中央銀行の膨張した資産圧縮を契機として、リスク回避的な配分を推奨してきたが、ようやく昨年末あたりから世界景気にも陰りが見え始めてきた。現在、株式市場を中心に急激な下落の反発局面となっているが、あくまでも一時的な反発ととらえている。

株式などの配分比率が高い場合には、 この反発局面をとらえて比率を落とすということも良い 選択だろう。

今後、株式資産、外貨建資産の配分比率の引き上げのタイミングが非常に重要になってくるが、現在の米国FRBによる金融引き締め(政策金利引き上げ)の停止や資産圧縮(バランスシート圧縮)の停止がそのタイミングになると想定している。

アップル下方修正を考える

1 月 2 日にアップル社のティム・クック CEO が株主宛てに送った書簡によると、昨年 10-12 月期の売上が、2 か月前の見通しの「890~930 億ドルから 840 億ドル程度になりそうだ」と下方修正を伝えた。要因は中国市場の弱さで、中国経済の減速が予想以上に深刻だという見方は、この後に中国人民銀行の大幅な預金準備率の引き下げに裏付けられる。

さらにiPhone の需要が予想以上に弱いということが背景にある。やはり高価格化に対する消費者の嫌悪があるのではないだろうか。登場から10年が経過し、低価格な製品も登場、市場が成熟してきたということである。

また、対中国貿易戦争は、トランプ政権が仕掛けたという構図で語られることが多いが、本質は米国の対中観の変化してきたことだろう。トランプ大統領ということではなく、国家の意思に基づくものではないか。かつて西側諸国は、中国が豊かにになれば、民主化が進み、市場が開放されると想定していたのだろうが、豊かになっても一党独裁は続き、軍事的にも脅威を与える存在になっている。従って単なる貿易の不均衡の是正ということが目標ではなく、5Gに代表されるような次世代の技術の優位性を維持するために、技術・情報の機密を確保するための交渉が目的である。

先週、米中は北京で次官級の通商協議を行い、トランプ大統領は 「中国との協議はとてもうまく行っている!」とツイートしたが、あまり期待を抱かない方がいいのではないか。この対中強硬姿勢はトランプ大統領というよりも、議会がリードしているし、安易にディールすることは無いだろう。

かくして、アップルの業績を支えてきた「高品質だが安価な製品を作る」という「グローバリズム」のビジネスモデルも変更を余儀なくされる。

市場の成熟は、株式バリュエーションの低下を促すために、業績の悪化以上に株価の下落を大きなものになるだろう。

APPLE株価

日本には多くのアップル関連企業が存在するが、 これまではアップルによって大きな恩恵を受けてきたが、アップルのビジネスモデルの変更によっては、大きな影響を受けることになるのではないか。

今後のアップル社の動向に注目していこうと思う。

パウエル議長、バランスシート正常化に言及

2019年の年始から世界の金融市場は大きく動いている。いくつかの注意すべきトピックがあったので簡単に考察してみたい。

尚、今年は更新の頻度を毎週火曜日に何らかの記事を取り上げ、マーケットが大きく動く、もしくは大きなニュースが出たときには随時更新していきたい。

では、日本の株式市場から見てみる。

大発会では、前日のアップルの下方修正を受けたニューヨークの株式市場の下落から、大きく値下がりしてスタートし、パウエル議長発言や中国の金融緩和の期待から大きく値を戻し、年末水準を回復してきている。

米国株式

さらに年始に大きく動いたのは、為替市場であった。アップルの下方修正からリスクオフの動きが懸念され、一時的に強烈な円高となった。プログラム売買による一方的な動きによるフラッシュクラッシュと呼ばれる現象が見られたようだ。

ドル円レート

年始のマーケットを動かしたトピックとしては以下のものが挙げられる。

  • アップルの下方修正
  • 中国人民銀行(中央銀行)の金融緩和
  • パウエル議長のバランスシート正常化に言及

まずアップルであるが、中国における売上の低迷から業績が下方修正された。これにより特に為替市場でリスクオフの動きを誘発したが、メディアによる”アップルショック”との煽りを受けたものではなかっただろうか。もともと中国の景気は減速しており、アップルの高価格戦略の不味さや米中貿易戦争の影響による自国製品へのシフトから想定されたものだと感じている。本質的には、中国の景気は減速しているということである。

次の中国人民銀行(中央銀行)の金融緩和であるが、 過去1年で5回目となる預金準備率の引き下げはサプライズではないが、1%ポイントの引き下げ幅は予想よりも大きかった。 これも中国の景気減速が想像以上に深刻であることの傍証だと思われる。トランプ政権にとっては、米中貿易協議を前に大きな譲歩を得られる可能性が増したと言えるだろう。現段階ではこの緩和のニュースは中国の景気減速の確認と言えるだけで、貿易協議が大きく進展し、景気減速に歯止めがかかる状況になるまでは 、株式を買う材料になり得ない。ただし、全人代を控えた中国が大幅な譲歩を見せるとも思えないのだが。

さて、最後はパウエル議長の発言である。昨年末のFOMCでは「バランスシート圧縮は問題ではない」と発言し、市場の期待を裏切っていたが、今回は、「市場の混乱の要因が、バランスシートだとは思っていないが、もし違った結論に達したら、方針の変更に躊躇しない。」とし、バランスシート圧縮の方針の変更の可能性に触れたのである。

発言自体よくわからないのだが、このタイミングで触れたということは、トランプ大統領にも解任をチラつかせられ、 株価の大幅な下落を背景にやむなく発言したと言える。

逆に言うと、この株価水準では、バランスシート圧縮の停止はしないということを表明したわけで、さらに下落した場合に方針の変更もあり得るということである。

こうした後追い発言は、大抵逆の動きになるものであるが、 この発言で株式が反発しているのは、昨年末からの下落スピードが急激であったために、短期的な反発の口実になっているからではないだろうか。

本質的には、バランスシート圧縮(金融引き締め)がリスクオフの原因であり、金利の上昇や株価の下落がようやく実体経済に悪影響を与え始めた状況になっているということである。あくまでバランスシート圧縮を停止するまで、現在のリスクオフ戦略(株の空売り、ドル円の売り)を継続したい。