米国バランスシート圧縮下での投資戦略

FED(連邦準備制度)は、引き続き政策金利の引き上げを行い、量的緩和の反対であるバランスシートの圧縮に早ければ9月にも着手することになっています。

投資家はFEDが本当にこの強硬な姿勢を実行できるのか懐疑的に見ていますが、任期を来年に控えたイエレン議長が、金融正常化の道筋をつけることに固執する可能性があります。

こうした量的緩和の反対の行動が、各資産にどのような影響を与えるのか、事前に想定しておきたいと思います。

バランスシート圧縮とは?

FRBは米国債について、「月当たりの再投資見送り額を当初60億ドルに設定し、その後、月額300億ドルに達するまで、1年をかけて3カ月おきに60億ドル増やす計画」、「モーゲージ担保証券(MBS)については、再投資の見送り額を40億ドルから始め、月額200億ドルに達するまで1年をかけて四半期ごとに40億ドル増やす。」というバランスシートの縮小に着手する方針を表明しました。

保有する米国債を売却するのではなく、償還資金の再投資縮小を通じた緩やかな方法ですが、1年かけて縮小を継続していくとなれば、FRBの買い入れ資産に連動するマネタリーベースは前年比で減少していくことになります。

米国長期金利

10年物国債に代表される長期金利は、ストレートにマネタリーベースの減速に比例して上昇することになると思われます。さらに減税・インフラ投資の財源のために超長期債の発行を行うならば、3%を超える水準まで上がる可能性があります。

為替

円ドルレートは、日銀によって長期金利がゼロ金利に固定されていることから、米金利の上昇により、ドル高方向に動くことになります。日本のマネタリーベースと米国の動きがまったく逆になるわけですね。

原油

ドル高となれば相対的に原油安になりやすいです。また米国シェールの生産量が逓増的に増えており、大きく上昇することは難しいのではないでしょうか?

先進国株式

さて米国株式に代表される先進国の株式ですが、トランプ政権による法人税減税とインフラ投資への期待に支えられている部分が大きいと思っています。

インフラ投資に対する期待は、共和党内での反対も大きいとみられるので、期待としては大きなものではないと思いますが、減税に関してはムニューチン財務長官が8月を目途に具体化したいと言っていましたので、期待は大きいのではないでしょうか。

量的緩和と政策期待に支えられた流動性相場から業績相場へと移行することになります。

米国の企業収益が大きく伸びる状況であれば、市場全体が大きく上げたり、下げたりすることはないと思いますが、企業収益が伸び悩んでいる場合は、大きな調整もあるのではないでしょうか。

新興国株式

強いドルは、新興国からの資金流失を促すため、先進国の株式よりも大きな調整になると思います。

当然、新興国通貨も下落するので対円でのリターンは非常にダメージが大きくなるのではないでしょうか。

ジャンク債

金融市場から資金が引き上げられる状況になった場合、一番先に売られるのはリスク資産です。

ドル高による原油安の影響により、シェール企業関連のジャンク債は、さらに影響が大きくなるのではないでしょうか?

リスク資産が大きく調整する局面では、金が安全資産として期待されますが、残念ながら米国長期金利が上昇する局面では、金はむしろ売られることになると思います。

実質金利の反対に動くために、期待インフレが高まらない限り、名目金利である長期金利が上昇することは、ネガティブな影響を与えることになるのではないでしょうか。

まとめ

景気が減速する中で、バランスシート圧縮が進められた場合、かなり悲観的な状況になると思います。

FEDがどれほど本気で金融引き締めを考えているかが一番の問題ですが、本当に9月にバランスシート圧縮を進めるのであれば、円での投資では、現金保有を高めてドル現金への分散を進めることが第一歩になると思います。

その後、リスクオフの動きが発生し、FEDが金融引き締めを諦めた場合、金への投資が最初の投資になるのではないでしょうか。

株式への投資は、その時点での下落の幅と企業収益の状況を見ながら検討することになると思います。

2017年9月から2018年にかけては波乱がありそうですね。

2017年6月FOMC

6月14日、FED(連邦準備制度)はFOMC会合を行い、政策金利の0.25%の引き上げを決定しました。この引き上げは、ほぼ予想どおり、むしろ関心は「バランシートの圧縮」であったと言えるでしょう。これに関して、イエレン議長は年内のバランスシートの圧縮に着手する方針を明らかにしました。最近の弱い経済指標と比較するとタカ派的な発言です。また将来の利上げを示すドットチャートは変更なく年内1-2回の利上げを見込んでいます。

反応しない長期金利

長期金利は、FOMC前に発表のあった弱い小売売上高と消費者物価指数の影響で急落し、FOMCでの利上げの発表後の戻りも限定的なものになり、2.138%(15日17時現在)で推移しています。FRBのタカ派的な行動に対して、市場はトランプ政権の経済政策の遅れに注意を払っているようです。一方で、株式市場は経済政策の遅れよりも低金利持続に注目し、高値を更新しています。前にも書きましたが、「債券の運用者は悲観的で、株式の運用者は楽観的。しかし最終的に債券運用者の方がたいてい正しい」ということでしょう。

そしてFRBもイエレン議長の任期を2018年2月3日に控えており、後継者(再任の可能性もある)のために、難しい仕事をやっておこうという動機にとらわれていると思っています。バーナンキの時もそうでした。イエレン議長は、金利正常化に固執し、経済の判断を読み違えているのではないでしょうか。いつまでこのタカ派的な姿勢を維持できるでしょうか。

バランスシート圧縮のシナリオ

さて、タカ派的なFRB、経済に悲観的な債券市場、楽観的な株式市場、このような組み合わせの結末はどうなのでしょうか。やはり株式市場の調整しかないと思っています。年後半にバランスシート圧縮をスタートさせれば、長期金利に上昇圧力がかかってきます。2008年以降の国債の買い入れによって膨らんだ残高を減らすということは、満期を迎える金額以上は買わないということなので、明らかに市場での買い手が減るわけです。トランプ大統領の当選で沸いた2.7%程度までは上昇する可能性があると思っています。一時的にドル円はドル高局面を迎えることになるのではないでしょうか。

株式市場は、トランプ政権の経済政策の遅れに目をつむって、金利低下を支えに株価を維持しています。与党共和党の同意の得られやすい法人減税の実現を期待している面もあると思います。

しかしながら、長期金利が再び上昇してきたら、さすがにもたないのではないでしょうか?また、オプションの売り(ボラティティーのショート)が大変多く、一時10%を割るところまで売られています。あまりに相場の変動に無警戒な状態です。このポジションの特徴は、下がれば下がるほどアンワインド(巻き戻し)のために売りヘッジを行うことが必要になります。これが下げを加速し、下落幅が大きなものにするわけです。

投資戦略は?

個人的には株価下落にかけるのは好きではありません。FRBが思い直して、かつてのようにハト派な姿勢に戻る可能性もあるわけですし、法人減税も、ムニューチン財務長官が示唆するように8月頃に実現性が見えてくるかもしれません。個人的にはこのシナリオを望んでいます。

従って、市場に大きな動きがあった時に収益化しやすい、逆張りのロング・ショートポジションの構築に努めようと思っています。また、ロングポジションのヘッジを長期金利の水準(2.7%を目途に)を見ながら、入れていきたいと思います。

現在、バイオ関連のロングポジションのみ保有してます。米国AI関連株のロング、日本半導体関連株、日本FA関連株のロング、日本自動車株のショートはいいタイミングでクローズできました。つきがありますが、あくまでもご参考までに。

自動車株とFA・半導体製造装置関連株

6月の利上げはあるか?

イギリス議会選挙

イギリスのメイ首相は、4月18日にもともと2020年に予定されていた総選挙を前倒しで行うと表明し、6月8日の実施を決定しました。

メイ首相は、「イギリス政府はEU離脱という国民の意思を実現しようとしているが、議会はバラバラだ」として野党等を批判。離脱を成功に導く強力な政権を作るため、選挙を行う必要があると強調していました。

EUとの離脱交渉で大変な時期に総選挙を行うことを回避するために、約束を反故にして、今回選挙を行うわけです。

当初、労働党コービン党首の人気が全くなく、与党保守党の圧勝が見込まれていましたが、メイ首相の打ち出した政策がまったく不評で、自らこける形で支持率を落としています。

選挙の結果、現在より大きく議席を増やすことができれば(3分の2超)、EUに対抗する上で、強力な政治基盤を持つことになりますが、現状程度の議席となった場合、政局運営が困難になります。約束を反故にして、勝てると踏んだ選挙で辛勝というのは相当にダメージが大きいと思います。

YouGovによる世論調査によると保守党と労働党の支持率は、42%38%となっており、4月には20%の差があったものが急激に縮小しています。昨年のブレグジットの経験から世論調査も気合が入っているのではと思います。

シナリオ

保守党が圧勝した場合はポンド高、円安、株高と想定しています。フランスの大統領選挙と同じような反応ですね。一方で辛勝もしくは敗北した場合は、ポンド安、円高、株安を想定します。

四月以降、ポンドは反発して1.3 GBP/USDをうかがう水準にありますので、圧勝した場合よりも、辛勝または敗北の場合の方が、反応が大きくなるのではないかと思います。ポンド売りで臨みたいと思います。